将来を見据えた蓄電設備の設計 エネルギーインフラを長期にわたり安全に守る部品とその規格
進化したエネルギー
世界中のエネルギーインフラは、準備ができているかどうかにかかわらず、進化しています。電力会社や政府機関では代替エネルギー源に対応する新機能の導入をはじめています。それら全ての中核を担うのがバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)で、代替源からの発電が減少した場合でも、電力グリッドに安定したエネルギー出力の提供を可能にします。


エネルギーインフラにおいてこのような重要な役割を果たすBESSには、極めて高い信頼性が求められます。もし発電量が少ない日にシステムがダウンすると、地域全体の計画停電につながる可能性もあります。このため、システムを保護するエンクロージャには、BESSが最も過酷な環境条件に耐え、かつ障害発生時に安全に抑え込むための厳しい規格が設けられています。
エンクロージャの厳格な試験をクリアするには、エンクロージャを構成するすべてのコンポーネントが故障しないという信頼性を示す必要があります。
本稿では、代表的な規格、考慮すべき事項、使用環境およびこれらに対応する金物部品について解説します。
UL 50E:エンクロージャを水、ホコリ、腐食から保護
UL 50Eは、非爆発性雰囲気で使用されるエンクロージャが配慮すべき環境について、ガスケット圧縮、ファスナ性能およびその他のエンクロージャを環境要素から保護する仕様を定めた規格です。
UL 50Eは、水、汚染、ホコリ、腐食によって引き起こされる日常の摩耗に耐えることを目的としています。通常、エンクロージャの最も脆弱な部分はドアとアクセスパネルであるため、設計においてはエンクロージャがこの基準を満たすよう、適切な金物部品を使用する必要があります。
この基準を満たす最も信頼性の高い方法の1つは、強力なコンプレッションラッチと高品質のガスケットを使用することです。ただし、パネルが大型もしくは薄くなるほど、圧縮力でたわむ可能性が高くなることに注意が必要です。
たわみによってパネルとガスケットの間に小さな隙間が開く可能性があり、これを防ぐには設計時点での対処が重要です。多くの場合、たわみに対する最善の解決策はマルチポイント・コンプレッションシステムを用いた多点締めです。このシステムは、パネルの端に設置した複数のラッチを同時に圧縮するため、複数のラッチを一つずつ閉める際に起こりやすい力の分散やたわみの発生を防ぎます。




さらに、エンクロージャの水やホコリに対する密封性や保護を維持するには、パネルのヒンジもその要件を満たしている必要があります。
鎖の強度が接合部という弱点によって決められるように、エンクロージャの安全性も最も弱い部分に左右されます。設計の際には、ラッチからヒンジまで、それぞれの部品についても経年変化による弱点とならないよう配慮が必要です。
IP65、IP66 – 微粒子 および水の噴流に対する保護
IP65は、大気中に砂やホコリなどの微粒子が常時存在する環境で満たすべき重要な規格です。これらの粒子は、ヒンジやその他の可動部品の摩耗を起こし、寿命を縮め、スムーズな動作を妨げる要因です。この規格は、低圧の水噴霧にも耐えるため、機器が海・湖・川など水域の近くに設置される場合にもある程度の保護性能を有します。
IP66は、さらに高い防水保護が求められる用途に適した規格で、大雨、ホースによる放水、波などの強い水の噴流による有害な影響を防ぐもので、BESS設備などの屋外に設置する産業機器に適用されます。


IP規格に適合する密封機能を持つサウスコF2 コンプレッションラッチシステムなどラッチソリューションは、環境要素からのBESSエンクロージャの保護に非常に適しています。
防爆
防爆に関する規制は馴染みが薄いかもしれませんが、バッテリーエンクロージャにおいては最も重要な項目の一つです。
まず、アークフラッシュ及び爆発の未然防止については他の複数の規制に基づき対処されますが、もし壊滅的なバッテリー故障が発生した場合、エンクロージャとそのドアは、ダメージを抑え込む最後の防衛線として、システム全体崩壊への波及を防ぎます。
つまり、適切な金物部品・アクセスハードウェアが不可欠です。パネルは、エンクロージャの設計上、唯一の開口部であり、故障発生の可能性が最も高い箇所であり、そのため強力な保護が必要です。
エンクロージャメーカーがこれを実現するには、ドアパネル用途に特化した強力かつ信頼性の高いアクセスシステムの開発能力を持つパートナーとの連携が重要です。非常に高い強度が求められるエンクロージャ用途では、標準品ラッチの強度では不十分な場合があります。エンクロージャに適したシステムの一例として、フレームに引っ掛ける一連の頑丈なフックによって、破壊せずにエンクロージャ全体にエネルギーを分散させる仕組みを持つのものがあります。
個別の課題や用途に適したシステムを設計できるパートナーとの協働は、BESSの故障が大事故に至らないための対策としても非常に有用です。
UL 94 – 防火・難燃性
UL94は、特定のプラスチック材料の燃焼性試験の安全性に関する規格です。リチウムイオン電池の事故をご存知の方であれば、これがBESSエンクロージャにとって重要である理由がお分かりでしょう。
バッテリーエンクロージャは非常に多くの数が近接して配置されます。そのため、1基が発火した場合、周囲のエンクロージャを保護する必要があります。1つのエンクロージャで火災が発生すると、周囲のエンクロージャに損傷が生じ、連鎖してシステム全体に損傷を与える可能性があります。
可燃性の観点からは、最も影響を受けやすい箇所であるガスケットには、バッテリー故障時にも耐えられる耐熱性が求められます。電気エンクロージャのガスケットが、アクセスパネルの隙間から火や熱が逃げないように十分な耐久性を有していることをご確認ください。


セキュリティとモニタリング・監視
最後に、設計においては、すべての環境要件への対応に加えて、人的要因についても想定する必要があります。BESSは遠隔地に置かれ、監視人員が常時配置されていないことがほとんどです。このため、好奇心旺盛な通行人もしくは破壊行為を行う者の侵入を防ぐ役割は機器自体が担う必要があります。
実は、このようなセキュリティ要件は、前述の安全基準を満たしていれば既に対策できています。不正侵入を防ぐ最良の方法の1つは、UL50 Eに準拠し、防爆性能を備えた同様のマルチポイントラッチシステムを使用することです。
マルチポイントラッチシステムは、外観からはラッチの場所、すなわちフレームとドアが固定される箇所を見つけにくいため、こじ開けによる侵入を防ぎます。仮に 1 つのラッチの場所が見つかった場合でも、システム内の他のラッチは、不正こじ開けの間もドアの安全を保ちます。
鍵によるロックはある程度のセキュリティにおいては有効ですが、ドアパネル自体にアクセスを困難にする仕組みを導入することで、盗難や破壊行為に対する大きな抑止力となります。
遠隔地設備のセキュリティには、電子監視およびアクセス制御システムも非常に有用です。特に、センサ一体型の電子錠や、リモートアクセス共有機能を持つ電子錠が適しています。サウスコのKeypanion™アプリのようなツールを用いて、ワイヤレスでアクセスの共有と追跡を手軽に始めることができ、誰がいつ機器にアクセスしたかを正確に知ることができます。


エネルギーの未来を守る
再生可能エネルギー業界は世界中で目下拡大中ですが、従来のエネルギーインフラと比べればBESSはまだまだ初期段階にあります。この段階において社会の信頼を得るのにの最も重要な要素は信頼性です。前述のさまざまな規格に準拠することで、環境要件に対する耐久性を備え、バッテリー故障に伴う大きな影響に耐えられるエンクロージャの設計を可能にします。
すなわち、エンクロージャのすべての構成部品 -ラッチからヒンジまで – が長期間にわたり環境要件に対応していることが重要です。エンクロージャの故障は、例え一部分でも、構造全体のセキュリティを損う可能性があります。
適切な金物部品・アクセスハードウェアを用いることで、エンクロージャの極端な環境条件での試験結果に大きな違いをもたらします。
サウスコ、事業開発マネージャーのフィル・テイラー「エネルギーインフラは急速に進化しています。当社はこれまでインフラの改善に携わってきた経験から、この新技術における信頼性、レジリエンス、高性能の重要性をあらためて強調します」とコメントしました。
設計と運用の両方を通じて信頼性とレジリエンスを実証することで、一般の人々のBESSの利点に対する認識を高め、将来のさらなる成長への道が開かれます。エンクロージャの設計においては、上記の基準や規格に適合することが、エネルギーインフラの未来を明るいものにする、その一助となるでしょう。