5G通信設備のエンクロージャの物理的安全を守る電子錠ソリューション
5Gモバイルコンピューティングと通信の時代は、急速に進んでいます。データ転送速度を飛躍的に向上し、データ容量が非常に多い用途でも低遅延の5G技術は、高帯域幅での通信、さらに「つながる」接続性と信頼性を可能にします。
今後4年の間、5Gインフラに対する投資額は世界中で100億ドルを超えると予測されています.[1]。通信大手企業の多くが2020年までに5G通信サービスの開始を目指すなか、現在までに、世界の最大手通信事業者15社のうち、米国、中国や日本などの主要通信プロバイダ9社が5Gプランの上市を予定しています。
今後は、既存の物理的な通信環境に加えて、高価値かつ先進のデジタル通信網が普及していきますが、この進化には、単なる既存の携帯電話基地局やアンテナのアップデートに留まらない周辺環境の整備が重要になります。
一般的に5Gには、スモールセルワイヤレスファシリティ(SWF)またはスモールセル(小型基地局)が用いられ、エンクロージャも壁面または柱に設置、もしくは柱に組み込むため、従来に比べて小型化します。
5G通信では、サービス提供にかかるネットワーク機器、保管庫、コンピュータなどのハードウェアや他の重要なインフラがよりエンドユーザーの近くに設置されます。このため、より高度な物理的セキュリティに対するニーズが高まっています。
電子錠システムである電子アクセスソリューション(EAS)は、さまざまな場面でスモールセルや他の5G機器のセキュリティを守ります。インテリジェント化することで、5Gシステムへの物理アクセスを効率的かつ包括的に管理できます。
電子機械式ロックやラッチからなるEASは、遠隔地にあるエンクロージャのセキュリティ管理に適しています。ネットワークに接続された電子錠制御システムは、スモールセルのクレデンシャル(認証情報)管理や監査証跡モニタリングを簡素化でき、物理セキュリティ管理における大きなメリットとなります。
分散型インフラを守る
ケーブルテレビや電力などのライフライン事業者と同様に、通信事業者も都市圏、郊外、商業地、工業地、一般および高速道路から非常に遠隔の地域まで、あらゆる場所に基地局などの設備を配置しています。
デジタルインフラ設備には、2つの物理的な共通要素があります。
- 遠隔機器が、ワイヤレスネットワーク提供上必要な高度技術を保護する設計が施されたエンクロージャ内に格納されている
- 遠隔機器には、定期メンテナンスや点検整備などの目的のため、さまざまな人がアクセスできなければならない
これらのエンクロージャは、世界のあらゆるところに偏在し役割を果たしていますが、日々の生活の中では意図的に探さない限り目に付くものではありません。
5Gスモールセルは、さらに高密度の新たな設備網としてデジタルインフラに追加されます。スモールセルの主要装置は、より小さな範囲でネットワークを高速大容量化するワイヤレストランスミッターと受信器です。現在の高出力「マクロ」基地局は、都市の広範囲に信号を送信しますが、ネットワークを介して転送されるデータ量を支えるには不十分です。モノのインターネット(IoT)技術の順調な発展により、2022年までに世界のモバイルデータのトラフィックは7倍に増えると予測されています.[2]
ネットワークに接続する機器の増加に伴い、データ容量も増加します。現在は既存のネットワークインフラで稼働中のモバイル機器をカバーできていても、十分なデータ転送速度が確保できなくなることで最終的には機器の動作が遅くなります。携帯機器が最良の電波状態を示していても接続速度が遅い事態は、このような原因で起こっています。これを解消するのがスモールセルです。スモールセルは、限られた範囲内のみでデータ通信を行うことで当該範囲の無線通信の密度を倍増し、またスモールセルの能力以上のデータ負荷発生の可能性を低減します。これにより、ネットワークは多数機器からの同時のデータ需要に対応できるようになります。
5Gスモールセル(小型基地局)配備で変わる2つのこと:
- スモールセルは小型冷蔵庫ほどの大きさで、同様の大きさのアンテナを備えている
- 5Gネットワークが設計通りの帯域幅とサービス能力を提供するには、5Gスモールセル同士の近接配備が重要で、すなわち非常に多数のスモールセルの設置が必要
スモールセルは、4Gネットワーク用に既に多く設置されましたが、2020年の5Gサービス開始に合わせさらに多くの機器が設置されます。近年まで、多くのスモールセルの施錠は、物理キーを用いる物理ロックのみでした。物理キーは簡単に複製でき、セキュリティ上のリスクとなっていました。
スモールセル設備は定期的な保守点検が不可欠で、作業には複数の設備会社や委託先が請け負うことも多いため、さまざまな人員がアクセスできる環境にあることが求められます。多くの通信用エンクロージャは南京錠で施錠し、業者ごとに異なる鍵を支給してアクセスしていますが、設備のセキュリティを守る方法としては効率が低く、脆弱でもあります。
広範囲にわたる分散型システムは通常は多くが無人の公共の場に設置されています。破壊や窃盗のリスクを防ぐためにも、セキュリティ性を確保することが非常に重要です。実際、エンクロージャはバッテリー、銅線や電子部品などの高価なパーツが格納されているため、窃盗の標的になることも少なくありません。
破壊や窃盗による二次被害として、設備復旧までのダウンタイムが発生します。窃盗によってエンクロージャ内の機器が故障すると、サービス範囲のネットワークノードに障害が発生します。復旧に際しては、緊急修理や新規部品に加え、ネットワーク障害やダウンタイム中の対応コストがかかります。よりセキュリティ性の高い電子錠やラッチなどのロックシステムを導入することで、このようなダウンタイムにかかるコストを大きく低減できます。
エンクロージャのセキュリティをアップグレードするには
電子錠システムである電子アクセスソリューション(EAS)は、今後導入されるエンクロージャのセキュリティ対策に適したソリューションです。物理キーで開閉する機械式のロックに比べ、EASは電子キーとなるデジタルクレデンシャル(認証情報)を用いるため、どこからでもキーを発行、追跡、そして解除できます。
電子錠システムは、アクセス制御リーダーまたは入力装置、電気機械式ロックとアクセスポイントの状態をモニタリングするコントローラの3つの主要な機器で構成されます。電子錠システムを設計する際には、エンクロージャ個別の目的に合う適切な電子錠を選ぶことで、スモールセルに必要なインテリジェンス、柔軟性とセキュリティ性を備えることができます。
数ある電子アクセス用クレデンシャルのうち、最もベーシックなのがビル管理や技術者の管理に用いられるRFIDカードです。多くの通信サービス事業者やベンダー各社では、オフィス、データセンターや施設のアクセス管理にRFIDカードが用いられています。
スモールセル用エンクロージャの物理セキュリティに適したサウスコAC-EM-10シリーズ(写真)などのエンクロージャの内部に設置するコンシールド電子錠。密封性に優れたAC-EM-10は、コンパクト設計でエンクロージャ内の占有スペースを抑え、機械式のラッチを電子的に操作し開錠します。
他のクレデンシャルには電子PINコードがあります。コードは定期的に変更でき、個人ごとに異なるコードも発行できるため、個別にクレデンシャルを管理できますが、PINコードは共有されやすく、忘れてしまうケースも少なくないため、メンテナンス作業の複雑化やセキュリティ上のリスクを招きやすい方法でもあります。
最もセキュリティ性に優れたクレデンシャルは、複数層の認証構造を持ち、個人ごとに発行でき、またクラウドベースのシステムで簡単に変更できる方法です。例えば、電子錠システムを用いて作業担当者のスマートフォンに電子的に一定の時間経過で変化する時間ベースのキーを生成するセキュリティアプリを導入すると、以下のような複数の認証レイヤー(層)が可能になります。
- スマートフォン機器と電話番号は作業担当者の所有物の場合、スマートフォンのロック解除に指紋や顔による生体認証を用いることで所有者を識別可能。
- 作業担当者がスマートフォンアプリを介して、クラウドプラットフォームから電子キーをダウンロード。パスワードで管理するため、セキュリティ性を確保。
- アプリにダウンロードした電子キーは、使用場所と機会(この場合、作業)を限定して発行されるため、特定のエンクロージャに特定の期間のみ有効。
このようなクラウドべースのコントローラを堅牢でセキュアなインテリジェント電子錠と組み合わせることで、5Gスモールセルへの時間ベースのアクセスをシンプルに構成できます。
電子錠システムの監査証跡機能は、通信設備管理においても有用な情報を提供します。5Gスモールセルのドアが開いた時間を追跡することで、メンテナンスなどの作業をモニタリングできます。もし5Gスモールセル整備の想定所要時間に対してドアがそれよりも長い時間開いている場合、管理部署は作業が長引いた原因を特定し、作業者の管理方法やコストの改善につなげることができます。
電子錠システムは拡張性にも優れ、エンクロージャ設置数の増加に合わせて必要な分だけ電子アクセスを追加できます。一部のエンクロージャメーカーやエンドユーザーの間では、電子錠システム導入には機器、ITシステムや継続的な運用サポートの負担が大きいとの認識が見られますが、電子錠システムにはネットワークへの接続や、機器またはソフトウェアを追加しなくてもセキュリティ性を確保できるものもあります。結果、電子錠システムを導入することで、5Gエンクロージャの物理セキュリティを最小限のコストでシンプルに強化することができます。
柱の外側か、内部か
新しい5Gスモールセルは、多くが電信柱などの5Gスモールセル取付に対応した柱に設置されます。これらの柱は、適切な高さ(15.24m未満)、多くが電源供給可能で、5Gセルのバックホール(中継回線・ネットワーク)である光通信ケーブルの近くに設置されています。
現在は、多くの5Gスモールセルが照明柱に設置され、周囲のスモールセルとLOS(無線通信の見通し線)接続に十分な高さに取り付けられています。しかしながら、昨今では柱自体のエンクロージャとしての活用が注目を集めています。方法としては、街灯などの柱の土台装飾部分をエンクロージャ化する、もしくは柱の内部全体への機器の設置などがあります。
このような新しいニーズは、エンクロージャメーカーにとっては設計や外観上の新たな課題でもあります。多くの自治体では都市計画に伴い、街灯などの建造物について、物理的もしくは外観上の規制を定めています。特に、歴史的景観保存区域、中心街や商業地区では、既存の設備や景観への影響を最小限に抑えたネットワーク機器の設置や、機器設計が求められます。
設計に適した金物の使用を推奨している。屋外の過酷環境に耐える優れた耐久性と、外観性を向上するデザイン性を兼ね備えたサウスコの E6コンスタント(定)トルク位置決めヒンジシリーズ。
通信事業者は5Gネットワークを設置するにあたり、エンクロージャメーカーに対して、アクセスパネル、ヒンジやラッチなどの外観要素についてもデザイン性を考慮し、フラッシュ(平面)取付、コンシールド(内部)取付や、目立たない金物の使用を推奨しています。
5G機器を柱の内部に設置する場合には、柱の高さに合わせて複数の5G機器ごとのアクセスパネルが必要になります。設計にあたりエンクロージャメーカーは、ヒンジや電子錠などを特注品を含め供給できる部品メーカーと協働することで、寸法要件を満たし、設計を有利に進めることができます。
まとめ
5Gはネットワークやモバイルコンピューティングの世界を大きく変える技術です。自動運転車やスマートシティなどの新しいコンセプトの実現には、5Gで可能になる帯域幅やミリ秒単位の応答時間が不可欠と言えます。モノのインターネット(IoT)もまた、大容量化を必要とします。2016年に84億あった、つながる「モノ」の数は、2020年には204億に至ると予測されています。[3]
5G機器の設置が進むなか、機器には十分なセキュリティ性とアクセスの容易さが求められています。シンプルなクレデンシャル(認証情報)管理、監査証跡やモニタリングが可能な電子錠・電子アクセスソリューション(EAS)は、物理セキュリティ管理に大きなメリットをもたらします。電子錠システムを用いることで、エンクロージャのセキュリティ強化、高価で繊細な機器のより良い保護に加え、エンクロージャが保護する機器のメンテナンスや整備作業をより効率的、柔軟かつ、セキュリティを確保し行うことができます。
詳しくは、サウスコの5G通信産業向けソリューションページをご覧ください。